町工場を訪ね歩いて、経営者のみなさんに話を聞いている。
本当は廃業したくない、という無念さ。リーマン・ショックでも業績を伸ばした、
という自負。きついけれど俺は負けない、という決意。
わたしが言えるのは、下請けとして自動車や電気の部品をつくる「サプライチェーン
(供給網)」経営だけでは、いずれ親会社から取引を打ち切られる、ということだ。
たとえ海外に親会社といっしょに出たとしても、何年もつだろうか。
せっかく技術力があるのだから、生かさない手はない。大橋さんの会社は、数学の
現場に行った。町工場のみなさん、行動しよう、営業しよう、連携しよう。きっと
新しい何かが生れる。
(2012年4月23日発行 朝日新聞「地域発企業発けいざい最前線」−記者の視点−より)
2012年4月23日
朝日新聞 編集委員・中島隆
正直に申し上げて、今回の審査は大変難しいものでした。というのも、残念ながら惜しくも
選に漏れたものを含めて、それぞれの製品の指向している方向がきわめて多様であったから
です。
これまで、大田区といえばものづくり、それも高い機能性を持った「玄人受け」する
製品作りのイメージが強かったのですが、今回の応募製品・技術は、一般の方の感性に訴え
かけるものであったり、社会インフラに直結するものであったりと、開発意図と使途が多様
でした。それだけに、同列で比較・議論できないことが多く、審査委員会も大変悩んだ次第
です。ただ、こうした広がりは大田区の企業の皆様が新しいことにチャレンジしておられる
ことの反映であるとうれしく思っています。
(同コンクール・カタログより一部抜粋)
2012年2月04日
審査委員長 東京工業大学 佐藤 勲
数式を金属によって表現する、というのは、実は簡単なことではない。低いレベルで雰囲気だけ見せるようなものであれば、模倣はできるのかもしれない。しかし数式という揺るぎない正しさを、その正しさのままに表現するのは、その正しさゆえに非常に困難なことである。関数は理論上の無数の点(座標)の連なりであり、この膨大な座標データを、レーザー加工機が実際に動作できる現実の加工経路情報に置き換えなければ、関数は決してモノとして存在することができない。
同社がこの技術を確立した瞬間、2変数関数はレーザー加工機の精度のレベルで現実化したのである。言ってみれば「数楽アート」は単なるオブジェではなく、商品企画や設計といった「理屈」を、現実に存在するものとして創り出す職人こそが、製造の世界における最も重要な「造物主」であるという現場の真実を、実際に触れることができる存在として象徴的に切り出したものなのである。 創業以来の伝統として引き継いだ”無から有を生み出す”精神と技術をさらに高めた同社の職人たちが、その持てる全てを結晶させて作り上げたこの「数楽アート」によって、同社は「職人の技術と矜持を広く社会にアピールし、職人としての誇りを取り戻したい」と言う。優れた製品を見る時、誰もがそれを作り上げた職人の技術と矜持にただ純粋な賞賛を贈り、職人が現実化させなければ、どんな優れたイマジネーションであっても単なる想像で終わるのだ、という冷徹な事実を、決して忘れてはならない。
2011年12月07日
grow2
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「人を愛する心」「音楽」そして「数学」──。
これらは、神が人類に与えし素敵な贈り物ではなかろうか? 私は、そのように考えるものの一人である。
さて先日、丸善書店梶E日本橋店で開かれた「数楽アートを楽しむ展」において、2変数関数をモチーフとした11点のすばらしいアート作品を見る機会を得た。そのとき、「これがカレンダーになったらいいな……」と呟いたところ、このたび、本当に制作されたというではないか。早速注文し、「2011年版・数楽アートカレンダー」を2部送っていただいた。1部は、大学で数学を教える友人へのプレゼント。彼曰く、「このカレンダーは飾らない。コレクションとして大切に保管する」とのことであった。なるほど「保管する」か……この出来栄えならさもありなん、友の行動に合点した。
さてもう1部は、やはりカレンダーとして正しくお披露目してやろう。待つことしばし──新たな年を迎えた1月1日、今、我が家の壁で数楽アート1月の作品「馬の鞍」が、燦然たる輝きを放っている。
時が進み、月がかわった際、はたして私は、このカレンダーをめくることに耐えられるのだろうか?
新たな年は、こんな贅沢な悩みとともに始まった。
2011年01月06日
日本数学協会 理事 渡邊 芳行
私たちは,定義と規則の純粋な構造を構築するゲームとして,また,諸科学との交渉・応用の過程に誕生するサイエンスとして,数学を楽しんできた。今さらに,“数楽アート”の登場によってアートとして楽しむことができるようになった。その楽しみは,アートの中に数学を見つけるというのではなく,数学の内にアートを見つけ出し,ステンレス鋼板を素材に精密板金加工技術によって世界ではじめて造形されたオブジェとして,である。大橋製作所はそれを独自の開発商品として,社会に提供しようとしている。
自然と社会の科学的認識の基盤にますます広がる“知”としての数学,生活空間にこれまた広く入りつつある“アート”,この二者を結びつけ,それを私たちは楽しむのである。そのような“楽”こそ,21世紀の新たな商品概念を示している。新興国・途上国に移転しつつある製造業の空洞化に途惑う日本を含む先進国経済の産業に新たな役割と課題を提起するものである。
2010年12月
神奈川大学経済学部 教授 大林 弘道